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Passion Flower~時計草~
外は冬。
天気は雨。
街では、気の早いクリスマスイルミネーションが行き交う人たちを急き立てる。
何となく憂欝なのは、何のせいだろう。
理由もわからないまま、部屋の暖房も入れずに冷たい空気で自分の体を虐げてみる。
ついでにテレビも切って、明かりも消す。
雑踏が随分と遠くに聞こえる。
日常の煩わしさは、狭い部屋の閉めきられた空間に融けていく。
そして私は、闇の支配者となるのだ。
──その闇に、唯一浮かび上がるもの。
窓辺にある鉢植え──時計草。
三つに分かれた雌しべがまるで時計の針のように見えるから、そう呼ばれるようになった花。
夏には、紫や黄色、白などに色づいた花を咲かせる、立体幾何学。
マッチの炎のように光って見えるそれに触れたくて、そっと手を伸ばしたのは──夢なのか現なのか。
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