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A「冬は色彩がないから、いいのよ」
シャッターを切りながら、ぽつりと呟く。先輩の口から零れた呟きは言葉の通り白く、そのまま空気に流れていく。なるほど、色の無いものはこんなに容易く消えていくのか、などと思いながら目で追う。
A「色があると温度もあるから困る」
声とともにまた白が溢れ、流れていく。カメラの先には葉も蕾もない冬の木がある。あんなのを撮って何が楽しいのか、僕にはわからない。
先輩と違って、僕は冬よりも春の方が好きだから。色彩が多い。温度もある。息の色だって分からないから、きっとそこに込めた想いも容易く消えたりなんてしないだろうし。
B「先輩は、色や温度があるものは嫌いですか」
その言葉に、先輩はようやくカメラから目を離した。
A「嫌いというか、困るの。色は残っても、そこに籠る温度はカメラの一瞬じゃ、捉えられないから」
どうしていいのか困る。
言葉と一緒に、白い息が流れていく。
カメラに視線を落とす先輩のその言葉は、きっと多分僕に向けられていない。カメラの話だというのに、まるで僕が先輩へ向ける感情に対して言われているようだった。
B「僕は好きですよ。春とか、カメラに納まる色彩を見て、その温度を思い出せるので」
一瞬で消えたりなんて、しないので。
見つめれば、先輩も一瞬を顔を上げる。視線が噛み合って、白い景色に朱が混ざる。
A「……そうかしら」
つい、と逸らした顔はほのかに赤く、そうして僕らを囲う木々には春を待つ蕾が色付いている。
自身のカメラを持ち上げ、また冬の景色を撮る先輩に向けてシャッターを切った。画面に切り取られたその色彩を見てつくづく思う。
先輩には色彩が本当に似合うな、と。
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