瞬く星

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その日も家路についたのは終電がなくなった後だった。もう何日も徒歩だ。都心から郊外まで何時間という距離ではないとはいえ“もう若くない”。 若ければ何でも持て囃される。花のうちに誰かに見つかればいいが、実が熟すころには賞味期限が切れている。アイドルとはそういうものだ。若くて当たり前。美しくて当たり前。青くて当たり前。そうでなければゴミ箱行きだ。 必死にしがみついてきたつもりだった。風が吹けばぽとりと落ちるところギリギリまで来ている。そしてその木は切り倒されることが決まったのだ。競い合い、励ましあった仲間ももういない。でも、他に移ることを考える余裕はなかった。 冬の星空は綺麗だ。私がどんなに頑張ってもたどり着けなかったところから、チカチカと輝く彼らが見下(くだ)している。 事実は残酷だ。毎日連れ回した大事な大きなキャリーケースが突然、鎖に繋がれた岩に見える程に。 ここに鏡がなくてよかった。 なけなしのお金とプライドをはたいて高額なクリームや化粧品も揃えていた。それでも隠せなかった絶望的な崖っぷち感。見ないように見ないようにしていた。今全部突きつけられたら、きっと泣いてしまう。 あのライブハウスで毎日歌って踊ってマイク回して、誰とでも絡んで、お客いじりだって率先してやる。スタッフが足りなければ裏方にだって回った。本当はダメなのはわかっていたけど、気がつくと体が動いていた。 私はアイドルだ。それだけで生きてきた。ライブハウス。探せばいくらでもある。でも、たったひとつそれがなくなるだけで私のアイデンティティは音もなく消えていくのだ。全ては砂上の楼閣、本当これ。 なんとなく、部屋の片付けをした。ほとんど脱ぎ捨てたままの状態でこんもり積み上がった昔の衣装。買ってはみたもののイメージに合わなくてあまり使わなかったキャミドレス。擦り切れがひどくてさすがにもう着れないポリサテンのワンピース。むちゃくちゃ気に入ってたんだけど直し過ぎて原形をとどめてないセットアップ。たくさんのフリフリグッズ。たくさんのキラキラ小道具。見ないように見ないように、ゴミ袋に入れていく。 パンパンになった袋はただでさえ狭い玄関を容易に塞いでしまった。仕方なく、出来た袋を集積所へ持っていく。本当は朝になるまで待たなければいけないルールなんだけど、今日だけは暗いうちに済ませてしまいたかった。
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