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結果的に夜中じゅう無心になって部屋を片付けていた。折り畳めないものを掛けていたハンガーはバラした。いつのまにか増えていたカラーボックスも畳んだ。タンスの中はカラになった。何かヒントはないかと買い漁った音楽雑誌も、必死に覚えた楽譜も、縛ってゴミ袋と一緒に置いてきた。
なんとなく、やり切れない思いを少し紛らわそうとしただけだった。がぶ飲みした水道水が涙の代わりに喉元を伝っていく。愛着のある場所がなくなるからといって、私自身が終わるわけではない。ゴミにした思い出は、負の遺産だから捨てるのではないのだと言い聞かせた。
カーテンの隙間から星が見えた。
明けの明星だ。
私に天文学の知識はないが、そう思わせるだけの輝きと存在感があるように見えた。
ヒリヒリする程冷たい空気がなだれ込んでくる。アルミサッシはキンキンだった。星を掴むことに夢中になり過ぎていつからか、季節すらもわからなくなっていたのだ。
すっからかんになった部屋。すっからかんになった心。自分が当たり前のことすらわからなくなるほど視野の狭い奴になっていたのだと思うと、我ながら恥ずかしくなった。みんな余裕なんてなかった。いっぱいいっぱいでやっていた。充実してるってそういうことだと思っていた。ぱっと見は正しいけど、長い目で見るとそうじゃない。
星たちが眠りにつく前に、空が白み始めた。
見えない時もあるし、なかなか手の届くところじゃないけど、私はずっとここにいるよ。そう言われている気がした。
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