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小さくていつでも持っているスマートフォン。そのカメラの画質だって今じゃ捨てたもんじゃない。簡単に加工できるし、クラスの女子はみんなスマホで写真を撮っている。
「なのになんで?」
彼女の手にあるのは、そこそこしっかりした普通のカメラだ。さすがにフィルムじゃなくて、デジカメだけど。
高校生にはお高いそれを買うために、彼女はずっとバイトしていた。
「なんでって」
彼女は今自分が撮った写真と、周囲を見比べる。納得がいかなかったのか、んーと唇をとがらせた。
雪がまたチラチラ降ってきた。
「スマホも悪くは無いけど、やっぱりもっと綺麗に写せることを知っちゃうとねー。本当はこれでも納得いってないし。レンズとかさー」
語りを一旦とめ、レンズ越しに世界に向き合うと、シャッターをきる。
「もっともっといいのあるしさー。技術もだけど、装備もいいやつにしたいし」
撮った写真を確認すると満足そうに笑う。お気に召したらしい。
「なんでそこまで?」
「趣味に理由って必要? あと、まあ、世界はこんなに美しいのだから、私が持てる最大限の力でその美しさを表現しないと」
そこで彼女は僕の方を向いて、笑った。
「申し訳ないじゃない? 人類として」
その顔が、とても綺麗で。
「ちょ、なんで撮るの!」
僕は思わず写真を撮っていた。スマホでだけど。
「ごめん、つい」
「ついってなに!」
「綺麗だったから」
思ったままをつい答えてしまう。彼女が赤くなり、僕の顔も赤くなっているだろう。寒いのに、顔だけ暑い。
「あのさ……、今のは君に失礼だったかもしれないからさ、写真の撮り方教えてくれない?」
重ねた言葉に、彼女は小さく頷いた。
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