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街角で食パンを加えた少女が、学校に来たら転校生だったという展開がいつか自分に訪れる可能性を、いつまで信じていたかなんてどうでもいい話だが、それでもグレゴール・ザムザがいつまでそういう奇跡を信じていたかと言うと、これは確信を持って言えるが、今の今までとても強く信じていたので、現在は絶望的な気分だった。
先ほどの食パン少女は同じ学校の生徒ではなかった。しかし、教壇には一人の美少女が立っている。転校生らしい。新たな日本人の少女だ。次の日本語会話の練習相手は彼女にしよう。そう思った瞬間、その少女は驚きの発言をした。
「この中に、異世界人、未来人、超能力者がいたら、私のところに来なさい。以上!」
クラスがしんと静まり返る中、グレゴール・ザムザはその瞬間、なにを考える間もなく立ち上がった。そして、なにを考える間もなく、その日本語は発せられた。
「宇宙人! 何故その台詞の中に宇宙人は入っていないんですかあああああああ」
その悲痛な叫びは狭い教室の中に響き渡り、激しくエコーした。ザムザは数瞬してから、なにを考える間もなく、高度で滑らかな日本語のフレーズが紡がれたことに、ザムザは状況を忘れて感動していた。その瞬間、グランドに眩い光が満ち、目がくらんだ。
「息子よ……」
「と、父さん!」
それは、父であるジョージ・アダムスキーの声だった。
「息子よ……よくやった。私はお前に、そのように、テキストやマニュアルに頼らないごく自然な形で、異星人語を習得してほしくて、お前をあえていきなり地球に送り込んだのだ……」
気付くと、ザムザは元いた宇宙船の中で、父であるジョージ・アダムスキーと二人、向き合っていた。やはり、今まで見ていたものは夢だったのだろうか。いや、シミュレーションだろうか? もしくは、シミレーションであるともいえるし、シュミレーションであるとも言える。そもそもそんなカタカナ語の正誤などどうでもよかった。
「父さん! どうして! どうしてあのタイミングで僕を現実に連れ戻したんだ! もう少しで、もう少しで夢のような萌えライフを堪能することができたのに!」
「いや……それはさすがに無理っぽくねぇかな……息子よ……」
ごく普通の男子高校生が、実妹や転校生や破天荒な同級生にモテモテモテまくるのには、かなりハイレベルな言語能力とコミュニケーション能力が必要なのだ。
完
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