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「意味が分からない」ということを隠しもせず訝しげに眉を寄せる僕を、優しい眼差しが撫でる。それは今まで向けられたことがないような甘い眼差しで、何だか擽ったくて僕は思わず目を逸らしてしまった。それでも彼は構わず続ける。
「三日月っていうのはね、成長とか希望とか、物事の始まりを意味するとも言われているんですよ。何も無かったはずの暗闇から現れたか細い光がやがて満月となって夜空を照らすように。例えその輝きが太陽には遠く及ばないものだとしても、自身から放たれたものじゃない借り物の光であったとしても、見上げる人々にとってはそんなこと関係ない。暗闇の中でそれは希望。安らぎなんです」
「…なんだかロマンティックですね」
「ふふっ、まぁ大分私の願望が入り混じってるんですけどね。そんな風になれたらいいなぁって…烏滸がましいですけど」
「…?」
「貴方は、太陽です。誰からの光も借りる必要のない、自身で眩しい程に輝く太陽だ」
「えと、はい…?」
「私が月だとすると、貴方無しじゃ輝くことすら出来ない。そこに居たって誰にも気づかれることすらない…無力なんです」
まるで口説き文句のようだ。こんな見目麗しいひとにそんな風に言われてしまったら、多くの女性はきっとイチコロだろう。しかしそんなロマンティックな台詞を僕に言う意味が全く分からない。
「な、にを…?すみません、仰っている意味が、僕にはよく…」
「ふふふっ。なんてね。分からなくて結構ですよ。ただ…」
色白の少し大きな手が不意に伸ばされて、するりと僕の目元を撫でた。柔らかい親指の腹で、恐らく隈が出来ているであろう僕の目元を何度もゆっくり撫でられる。気づけばもう片方の手はぐっと腰に回されて、ぐいっと身体ごと引き寄せられていた。瞬間、寄せられた耳元で「…本当に細いなぁ」という低い声が聞こえた気がした。
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