crescent moon

11/27
前へ
/29ページ
次へ
何だろうこの体勢。何故僕は出会ったばかりの若者に抱き締められているんだ。一体何がしたいんだこいつは。 だけどなぁ…。 出会ったばかりの他人にここまで触られると普通は嫌な気持ちになるはずだろうに、僕は全く気持ち悪いとは思えなかった。自分でも驚くほど力を抜いて、彼の為すがままになっていた。 彼の首筋からふわりと香る、いい匂い。ミントのような、瑞々しい草みたいな、爽やかな香り。香水なのか彼自身の匂いなのか分からないけれど、何故だかその匂いにとても安心する。 今までどっちかというと他人に触られるのは苦手だったはずなのに、匂いのせいかそれとも本当に魔法にでもかけられてしまったのか、僕は彼の腕の中で驚くほど安心しきっていた。 僕はもしかして面食いだったのかと、自分で自分が少し心配になる。しかしやっぱりこの状況はおかしい、と思う。 「…あの?」 「もっとご自分を大事にしてください。じゃなきゃ私も消えてしまうから」 「大事にって?消える…?」 別に自分を蔑ろにしているつもりは無いのだけれど。というか「消える」って何だろう。烏滸がましい憶測だけれど先程の台詞から察するに…青年は僕を太陽に、自分自身を月に例えてそう言っているのだろうか。この僕が太陽だなんてあり得ないことだと思うが…。頭上にはてなマークが飛び交う僕の身体をより強く引き寄せて、月の青年は続ける。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

185人が本棚に入れています
本棚に追加