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二階の生活スペースへと連れていかれたあの後、何故だか青年は色々と世話を焼いてくれようとした。柔らかい大きめのソファに座るよう僕を促してから温かい紅茶を入れ、小腹が空いているだろうと美味しいクッキーまで用意してくれた。
まさかこんな貧相な僕からお金を盗ろうなんて思わないだろうし青年にそんな下心があるとは到底思えなかったが、只の客にここまでされる理由が分からない。もしかしてホテルもやってるのかと思い聞いてみると別にそういうわけではないらしく、僕が通されたのは本当に青年が毎日生活しているプライベート空間らしかった。
勧められるがままに紅茶やクッキーを頂きながらも、これ以上世話になるわけにはいかないと、帰る機会を窺っていた。「せめてお金を払う」と言っても頑なに聞き入れてくれないし…。流石に悪いと思った僕が「帰ります」と席を立とうとすると青年は途端に凄く悲しそうな顔をした。捨てられた子犬…みたいな。その顔が余りにも可哀想で、もう一度ボフンとソファに座り直す。何度か同じようなやり取りを繰り返し、結局泊まらせてもらうことにした。僕と話す青年は本当に楽しそうで、本音を言うと僕もこの時間を壊したくなかった、というのもある。
まぁ、こんな大きな家に一人で暮らしているようだったし、もしかしたら淋しかったのかもしれない…。人通りもなくてお客さんも居ないなら、話し相手が欲しかったのかも。そう考えると余計に帰りづらくなったのだ。
しかし流されやすいにも程があるぞ、自分…。
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