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その道に入ったのは、本当に只の気まぐれだった。
会社帰りに偶然見つけた、小さな路地。この日残業終わりだった僕は身体は疲れているはずなのに、心は何故だか軽かった。そのせいか普段なら真っ直ぐに帰る道を通らずに、寄り道をしようという突然の発想に身体を任せきっていたのだ。
誰だって子供の頃、ふと知らない道を歩いてみたくなったりしたことがあるだろう。似たようなものだ。ランドセルを背負わなくなってもう十五年近く経つというのに、僕のこの習性は治ることはないらしい。
大通りから外れた細い道路で、何気なく目に映った曲がり角が気になった。
「あんな角あったかな」
普段からそこにあったのか分からない曲がり道を曲がると、たった数十メートル進んだだけで都会の喧騒とは無縁の景色が広がっていた。アスファルトで綺麗に整備された地面に、優雅にそそり立つ無数のガラス張りのビル。さっきまで僕が居たそんな景色は一体何処へ行ってしまったのか、まるで田舎に一瞬にしてワープしてしまったみたいな古びた通り道が現れたのだ。
先程までただ大人しく単純作業のように脈打っていた心臓が、とくんと少し大きく跳ねた。普段と違う。たったそれだけで、僕のちっぽけな冒険心が疼く。
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