crescent moon

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次に奥の壁に掛けられている丸い時計のようなものに視線を移した。遠目には金色のラインに縁取られた紺色の文字盤の、上品な時計に見える。しかしよく見ると、時間を表す数字以外にもいくつかの文字が描かれていた。丸の中にもまた小さな丸があるし、針も長針と短針と秒針の三本だけじゃなくて他にも数本ある。それにそれぞれ違う速さで動いており、結局正確な本数は分からなかった。あれは時計ではないのだろうか。時間以外に、何を計っているのだろう。スイスのベルンにある時計塔のものに似ている気がする。 …一体どんな用途で使うのだろう。 とにかくここに置いてある物のどれもが見たことがないような、不可思議なものばかりだった。 やっぱりこの品々にはあの映画みたいに魔女除けのものも含まれているのかもしれないな、なんて。 ひとまず僕は、ここは不思議な雑貨屋だと思うことにした。考えたって分からないものは一旦置いておこう。 「ふふっ。不思議なものばかりでしょう」 僕が入り口近くで店内を物色していると、今にも抜けそうな木の床からぎいぎいと音を鳴らして先程の声の主が姿を現した。 この人が、この店の…。スラッとした細身の黒いパンツに縦縞模様が入った白いワイシャツ。その上からゆったりとしたカーディガンを羽織り、一纏めにした艶やかな銀髪を肩からさらりと流している。中性的な風貌だ。長めの髪で半分隠された顔ははっきりとは分からないが、ふっと息を漏らして微笑む彼からは一瞬妖しい匂いがした。 …魔法使い。服装は至って普通に現代のものなのに、そう言われても成る程と納得してしまいそうな程神秘的な雰囲気を漂わせている。 恐らくこの奇っ怪な店の店主と思われるその男は柔和な笑みを浮かべたまま、雑多な店内をジグザグに歩いて未だ入り口近くに居る僕に近づいてきた。
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