カモミールとリンゴ

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 お客さん、それも高校生相手になに子供じみたことを、と俺は自分を叱りつけながらオーダーを取りに行く。 「ホットココア、お願いします」 「かしこまりました」  この一辺倒な会話。やっぱり今日も同じか、とボールペンを走らせて顔を上げると、彼女は目をぱちくりさせながら店の入り口の方をじっと見つめていた。  目線をたどると、店に入ってきたばかりの客の姿が見えた。  さらさらと流れる艶やかな肩までのミディアムロングの黒髪、白い肌、長くくるんとした睫毛に縁取られたアーモンド形の目。卵型の小さい顔。紅をさした唇。  ベージュのトレンチコートの下にはターコイズブルーのミモレ丈スカートに、白のニット。絵にかいたような透明感のある清楚系美女だった。アナウンサーとしてテレビに出ていても全く驚かない、そんな容姿をしている。  そして、彼女のもつ黒いボストンバックに目が行く。黒地の上には、『BRIGHT』とピンクのロゴが大きく入っている。そのデザインに見覚えがあった。  俺の大学の三大サークルとして有名な、ダンスサークルの部員がもつボストンバックだ。
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