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そのボストンバックの美女は店内をきょろきょろと見回し、まっすぐ窓がステンドグラスになっているソファー席へ向かった。そして手早くもう片方の手に持っていたブランド物の黒いカバンの中から薄い銀色のノートパソコンを取り出す。
「いらっしゃいませ。ご注文お決まりになりましたら、またお呼びください」
いつものように、その女子大生の前にもグラスの水とメニュー表を置く。立ち去ろうと踵を返した瞬間、「あの」と声がかけられた。
もうメニューが決まったのか、早い――と思いながら後ろを振り向くと、彼女がスマホを差し出して一言、言った。
「写真撮ってくれませんか」
「……はい?」
写真? ご家族で来られた方には集合写真をとってくれと頼まれることは日常茶飯事的にあるが、一人の単体客に頼まれたのは初めてだ。何を撮ってくれと言われているのか分からず、俺はスマホを差し出されたまま阿保みたいに突っ立った。
「ノートパソコンで私が作業している様子、他撮りで撮ってほしいんです。あ、このバラのステンドグラスの窓が綺麗だからそこも映りこむようにしてくださると嬉しいです」
お手数かけてすみませんが、と彼女がまっすぐ俺を見てもう一度スマホを差し出した。
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