ホットココアさんとホトトギス

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 ホットココアさんは今日も来るはずだ。彼女はいつも16時くらいに来る。来るときはいつも紺色のスクールカバンを肩にかけて、こげ茶のローファーに紺ベースのチェックのプリーツスカート、Yシャツに赤いネクタイといういでたちだ。歳もかんがみて高校生だろうと俺は勝手にあたりをつけている。 俺がバイトに入っている時、彼女は毎回このカフェに来る。俺はバイトだから毎日出られるわけじゃないけれど、きっと彼女はほぼ毎日来ているんじゃないだろうか。  カフェ・メープルは、にぎやかな学生街を通り抜けて川を渡ったその先の、3つ目の曲がり角にひっそりとあった。川の手前側は俺たちの通う大学生が多く行きかう学生街だから、いつも学生やオフィスに行きかうサラリーマンでにぎわっているが、川を渡ると民家の棟が始まる。そこは手前の学生街とは打って変わって静かで、まるで別世界へと迷い込んだ気分になる、そんな場所だった。 その別世界への境界線のような橋を渡り切り、川沿いの桜並木がつづく道なりに歩いてふっと横を見てやっと、そのカフェは現れるのだ。まるで秘密基地のように。  それでも、知る人ぞ知る居心地の良い喫茶店、という感じのこの店では、お客が絶えることはあまりなかった。閑古鳥が鳴いてもおかしくないような立地にも関わらず、お客さんが全くこなくて困った……なんてことにはならない、そのくらいの客足だ。
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