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「そもそも需要あるんですか、これ」
「あるのよそれが。その証拠にこの前のお爺さんがきたわけだし。それに……」
観月さんが少し遠い目をして、ぽつりと言った。
「ここは元々、そういう喫茶店だったんだもの」
どういう意味なのか、俺にはそれ以上聞けなかった。それを言った彼女の横顔が、あまりにも寂しそうで。懐かしそうで。
「あ、そろそろ飲み頃よほら」
観月さんがいつもの笑顔にぱっと戻ってハーブティーの入ったポットの蓋をあける。柑橘系の爽やかな香りが辺りに漂った。
「ほら、飲んで」
「え? 俺ですか?」
そう問い返して、彼女の思惑に気づいた俺はわざと眉をひそめてみせた。
「俺別にイライラしてませんけど」
「あちゃー、バレたか。可愛げないな本当に君は」
ビタミンCが豊富に含まれるオレンジピールには鎮静作用があるから、イライラや神経の高ぶりを静め、気分をリラックスさせる効果がある。
思えば俺がHPを見だした時から彼女はいそいそとハーブティーの用意を始めた。……見え透いてるけれども、なんだかおかしくなって俺は吹き出した。
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