カモミールとリンゴ

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「じゃあ、この辺で」  真波先輩が立ち止まったのは奇しくも俺とココネさんがクローバーを探したあの土手の、ベンチのところだった。先輩はひらりと素早くベンチに座ってごそごそと何かを取り出した。  何を一体出すのだろうと黙って見守る。彼女が取り出したのはベーグルサンドだった。   「これ食べてるところ、そことそこのアングルからお願いします」 「はあ」  真波先輩に指示されるがまま、俺は斜め前、斜め後ろと色んなアングルでシャッターを切る。そして真横からも。一連の方向からシャッターを切り終わり、ベンチで横並びになったまま俺は彼女に画像データを見せた。 「さすがね、どれもすっごく綺麗」  うーんどれも捨てがたい、と悩む先輩を見守っていると後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。 「石蕗さん……?」  その声に俺は慌てて振り返る。反射的に腕時計を確認して、咄嗟にしまったと思う。  ――15時45分。いつも習慣のように、ココネさんが来る時間だった。
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