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「あの、石蕗さん」
俺が水を注ぎに行くと、ココネさんが恐る恐ると言った感じで話しかけてくる。珍しい、と思ってつい水を注ぐ手が止まった。
「あの人大丈夫でしょうか」
「え?」
「この前あの川土手で見たときよりも顔色が悪いような気がして」
「そう?」
そう言われて先輩を眺めてみても、俺にとっては違いが分からない。女子同士でしか分からないレベルのものなのか、俺が鈍いのか。
どちらにせよ先輩は間違いなく多忙だから疲れているのは必至だ。
「先輩、差し入れです。ビタミンCとってください」
俺がハーブティーのポットを持っていくと、彼女はがばっと顔をあげてもうこんな時間か、と呟いた。
「なにこれ、いい匂い。オレンジの香り?」
ありがと、と顔を上げて彼女が耐熱ガラスのカップを口元に運ぶ。
「オレンジピールティー。はちみつと相性がいいから、それも入れてあります。リラックス効果もあるんです」
「……美味しい」
彼女がぼそりと呟く。その顔にいつもの貼り付けたような完璧な笑顔はなくて、俺は初めてこの人の作らない顔を見た気がした。
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