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「え、仲良くないのにこのメンツでこの近さで話すんの?」
彼がスマホの画面を俺に見せる。そこに写っていたのはあの日の俺と祐介、先輩だった。どこか数メートル先から拡大して撮ったのか、少し画質が荒い。
いつの間に、と俺が呆れながら口を開こうとした時だった。
「なーにしてんの」
いつものひょうきんな声が横から飛んできた。右肩に黒いリュック紐をひっかけ、左手をズボンのポケットに入れた祐介が気だるそうに立ち止まっている。
「お前、いたの」
「ほんと失礼だな馨は。俺だって真面目に講義受けるときくらいあります」
リュックをどさりと置いて、祐介が「見してそれ」とおしゃれ茶髪くんからスマホを受け取った。目に見えて茶髪くんがうろたえる前で、奴は鼻で笑って一瞬でスマホを返す。
「ほーん、暇な奴もいるんだな」
お疲れ様、と嫌味のこもったアクセントが伝わったのだろう、相手はあからさまにむっとした顔をした。
「内藤お前さ、日高さんとも遊んでんの? 噂には聞いてたけど、どんだけ女好きなんだよ」
その言葉に祐介がゆっくりと振り返る。奴の顔には完璧なスマイルが張り付いていた。こいつがこの顔をするときは、決まって怒っているときだ。まずい。
「さっきから噂、噂って。俺たちのいったい何を知ってるっての? 話したこともほぼないくせに」
「ああ、ないな。行こうぜ」
一度こうなった祐介は色々面倒だ。俺は茶髪くんを放置したまま、祐介の二の腕をひっつかんで講義室から退散した。
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