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先輩に労いメニューを出してもいいかと相談ついでに少し事情を話すと、観月さんはううむ、と唸った。
「なるほどね、大変だったのね君たち」
「もっと大変なのはあの人ですよ」
俺はオレンジリキュールを温めておいたコーヒーカップの底に少しずつ注ぎながら答えた。今日は居酒屋に行く気分でもないけどお酒が入った飲み物が飲みたい、という祐介のぼんやりしたリクエストに応えて、『マリア・テレジア』を作るために。
オレンジリキュールの上から深煎りした淹れたてでかぐわしい匂いのコーヒーを注ぐ。そのコーヒーの水面にホイップクリームを浮かべ、その上から金平糖を散らした。本来のマリア・テレジアは砕いたキャンディを浮かべるのだが、この喫茶店では独自に金平糖を散らす。
大のコーヒー好きだったオーストリアの女帝、マリアテレジアが愛したと言われる飲み物だ。
「おー、すっげえいい匂い」
いただきます、と言いながら祐介がそれを口に運ぶ。その様子を眺めて、観月さんがぽつりと言った。
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