ホットココアさんとホトトギス

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 大学生は授業が自分で組めるから、真昼間から暇な空きコマができる。昼下がりの13時ごろ暇を持て余している時間に、聡美から昔のように「新しい彼氏できた」メッセージを受信したばかりの5ヶ月前の俺は、何となく一人で歩きたくなっていつもは足を向けない川の方へ数十分歩き、川を越えた。  4月の下旬。もう薄桃色の花もほぼ散ってしまい、すっかり葉桜となった桜並木をぼんやりと眺めながら歩いていた途中で、コーヒーカップのイラストの看板を掲げるこの喫茶店を見つけたのだ。  ちょうどいいや、だいぶ歩いたし少し休もう――。そう思いながら足がふらふらと引き寄せられるように店に向かう。  滑らかなチョコレート色をした木製のドアに、アンティーク調のがっしりとした黒いドアノブ。それを掴んで店のドアを恐る恐る引っ張ると、カランと小気味の良い音が頭上でした。よく見ると実際、銀色のベルがちょこんとドアのトップについている。  ドアを開けたとき、別の時間軸に飛んだ感じがした。  豆を挽く音、立ち上る湯気、広がる珈琲のアロマ。その空間は、俺を時間旅行に誘ってくれる未知への扉のように思えた。
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