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「……誰かに聞いて欲しくて、でもここしか思いつかなくて」
封筒をぼんやりと眺めながら先輩が呟く。何となく、本当に何となくだけれど、何でも持っていておよそ無敵に見えるはずの先輩の姿が、置いてけぼりにされて帰り道を見失った迷子の女の子みたいに見えた。
「俺でよければ、聞きますが」
そう言うと、彼女は俺を見上げて自嘲気味に口角を上げた。
笑うと分かる。彼女の目の下のクマは日に日に格段に深くなっていることに。
「……私、卑怯だね。君ならきっと、そう言ってくれるだろうってどっかで思ってた」
「そんなん最初っからじゃないですか、俺にカメラマン頼んだ時から」
それもそうねごめんなさい、と彼女はふふっと笑った。
「この手紙がね、私の所属してるゼミ室宛に送られてきたの」
先輩がクリーム色の封筒を指差した。触れないように、いや、まるで触れたくないもののように。
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