カモミールとリンゴ

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「……脅迫状とかですか?」  彼女はゆっくりと首を横に振った。 「ううん、中身は全く知らない人からのファンレターみたいな中身。電話番号の連絡先とか写真とか入ってたけど、それはまあよくあるし」  それはそれで問題じゃないのか、と思ったが問題はどうやらそこではないらしい。 「私ね、自分の所属ゼミとか一切公表したことないの」 言うと先生たちに迷惑かかるかもしれないから。そう言いながら先輩がため息をつく。 「でも、これが届いた。みんなにも『ファンレターの宛先ここにしたの?』って言って笑われたんだけど、私、一切公表してない」  先輩が繰り返す。  その意味をやっと理解して、背筋が震えた。  顔も知らなかった、匿名の人に公開していない個人情報が特定される。自分の普段の生活が侵食される。  その恐怖はどれほどか。  そしてもう一つ、公表していないのに、特定される個人情報。その経路はたった一つしかあり得ない。 「どっかで先輩の知り合いか、周りの人が情報流してるってことですか」 「……もうどっちだっていいわ、どれも同じよ」
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