カモミールとリンゴ

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 珍しく先輩が投げやりな物言いをする。  そういえば先輩は、一度だって泣き言を俺に言わなかった。一度も愚痴をこぼさなかった。弱みを見せなかった。  いつも顔に、完璧な笑顔を張り付けて。 「……ネット上の噂とか叩かれることとか、ちゃんと覚悟してたつもりだった。お父さんに撮ってもらった写真のっけたらガラスに反射したお父さんの影を『男の影が映ってる』って騒がれたことも、自撮りの写真上げたら『目に男の影が映ってる、彼氏に撮ってもらったんですね』って意味わからないことで叩かれたのも心底どうでもいいって言い聞かせながらやってきた」  大体、自撮りした写真の目に男が映ってるわけないでしょ映るのはスマホだけよと彼女が苦笑しながら突っ込んだ。まだ突っ込む元気はかろうじて残っているらしく、俺は少しだけ安心する。 「……でもね、やっぱり身近な人に言われるのはこたえるわ」  俺の相槌も待たず、堰が切れたように彼女はしゃべり続けた。まるで、いままで溜めていた泥を吐き出すように。 「ミスコンの活動しだしてから数週間たったころ、今まで友達だと思ってたサークルの子が、掲示板に悪口書かれてるよって教えてくれたの。わざわざ。『日高真波とかいう頭悪いビッチ女なんてミスコン降ろされればいいのに』って書かれてるけど、大丈夫? って」
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