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真波先輩はグラスの水を一気に煽る。
「私はそんなこと思ってないから応援してるよ、って後付けみたいに言われたんだけど、ああこの子本当は私のこと好きじゃないんだなって。好きな相手なら言う? 悪い噂流れてるよって」
そういえば祐介は俺に一切言いもしなかったし悟らせもしなかった。俺たちの周りに噂が流れていることを。
それは奴なりの気遣いだったのだ。
「……みんな、私よりネットの方を信じるのよ。『彼氏いないって嘘だってほんと?』とか、『出来レースってそういうのやっぱりあるの?』とか。おまけに高校時代までの知り合いしかフォローしていないはずのSNSの投稿のスクショも出回るし、もうだんだん誰も信用できなくなってく自分が怖くなった」
顔も知らない人たちの集合体から叩かれる苦痛よりも、今まで自分が信じていた人たちが信じられなくなるのが怖い。本当は自分の味方なんか誰もいないんじゃないかって気がしてきて怖い――。先輩はそこまで怒涛のように喋ってふっつりと糸が切れたように黙り込んだ。
こういうとき、自分が口下手であることを呪いたくなる。なんて言ったらいいのか分からない。安易な言葉をかけたくないが、かといって気の利いたことも言えない自分が歯がゆい。
ならば、と俺は踵を返した。
「――少しだけ、待っててください」
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