カモミールとリンゴ

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「それから、個人情報流出の経路だけど」  それまで黙って俺の言葉を遮らないでいてくれた観月さんが神妙な顔で口を開く。 「私の方のつてでネット上にもし拡散されてれば差し止めるわ。あなたには守られるべき権利がある」  俺も先輩も揃って目を丸くして観月さんを見る。一方の祐介は驚いた顔も見せず、涼しい顔でコーヒーカップを置いた。  お前も驚けよこういうときはと妙に頭の回転の速い知人にいまいましく思いながら、それに比べて察しの弱い俺はちょっとだけふてくされた。  何者なんだ、この人は本当に。 「昔のつてでね、セキュリティに関してはプロの知り合いがいるの」  観月さんがその大きな眼鏡の奥からウインクして見せた。そのきっぱりとした言い方に先輩は素直にこくりと頷く。 「……ありがとう、ございます」  先輩がぽつりと呟いてリンゴを前にいただきます、と手を合わせる。もう語彙力が限界の俺は黙って頷き、カウンターの後ろに引っ込もうとした、その時だった。
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