カモミールとリンゴ

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「そういえば、今日はちょっと報告があって」  先輩が改めて、と背筋をピンと伸ばす。ステンドグラスに透けた光の中で誇らしげに胸をはった先輩はなんだか前よりもしなやかで強くて綺麗だ。 「グランプリは獲れなかったけど、事務所が決まって。芸能界にちょっと入れるようになりました」 「すごいじゃないですか、おめでとうございます」  俺がそう言うと、彼女はありがとうと微笑んで喫茶店の中をきょろきょろと見回した。 「今日あの子来てないのね、リンゴの花言葉の子。お礼言いたいのに」 「16時くらいまでいたら来ると思いますよ」  俺がそう言うと、先輩は顔を曇らせた。 「今日はもうあとちょっとしたら行かなきゃいけないから、会えないかな。……ああでも、また会えるか」 「よく喫茶店には来ますから、またいつでも会えると思いますよ」 「……そうね」  そう言いながら、先輩がテーブルの上に置かれたカモミールティーの入ったガラスポットとティーカップと砂時計を写真に収める。
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