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「……ねえ、ひょっとして」
砂時計を逆さまにして、その流れていく砂を見つめながら先輩が呟く。そして、俺の顔を見上げていった。
「あんた、何も知らないの?」
「はい?」
いつの間に君からあんた呼びに降格になった、と首を傾げながら俺は答える。
そんな俺の様子を見て、真波先輩はカモミールティーをぐっと飲み干して席を立った。
「まあいいや、また今度来るわね」
ありがとうございました、とその後ろ姿に声をかけると彼女は後ろを振り返らず手だけひらひらと振って応えた。
一時期のような、取って張り付けたような完璧な笑顔はいつの間にか消えていたことに俺はほっとする。――その分、俺に対する憎まれ口を叩かれる機会が多くなった気はするが、まあそれは良しとしよう。
そしてその日は結局、ココネさんは珍しく喫茶店に来なかった。先輩が待っていなくてよかったと、その時の俺は思った。
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