三つ葉とコーヒー

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 その日も、「ご注文は」というと彼女はやっぱり、「ホットココアをお願いします」とオーダーする。でも今日はなんだかいつもと違った。 「馨さん、実は私これ買ったんです」  誇らしげにちょっとばかり胸を張って、彼女がスクールカバンの中からごそごそと本を取り出す。  本は分厚いB5くらいのサイズ。 「ポケット植物図鑑」  俺が目を見張ると、彼女は満足そうに頷いた。 「馨さんの趣味素敵だなって、私も植物に詳しくなりたいなって思って」  はにかみながら彼女が図鑑の表紙をそっと撫でた。嬉しいやら恥ずかしいやら、どんな反応をしていいのかよく分からない。俺はぎこちなくただ少し愛想笑いのようなものをして「……なんか、ありがとう」とだけ言った。  なんだか無性に恥ずかしい。 「ココア、待ちながら読んでますね」  彼女はそう言って図鑑のページを開いた。喫茶店の窓から光が差し込む中で本を読む美少女が絵になりすぎて、背景のステンドグラスの綺麗な装飾も霞んで見える。
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