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カフェ・メープルの勤務初日、観月さんは唐突にこう聞いた。
「馨くん、君身長何センチ?」
「178です」
「うお、高い。……そっかそっか、じゃあこれちょうどかな」
いそいそと彼女が奥の部屋から服を一式、取り出してくる。灰色のぱりっとしたワイシャツ、黒のネクタイとズボンと腰から下に巻くタイプのエプロン。彼女も似た格好をしているから、どうやら喫茶店の制服らしい。
「黒髪正統派イケメンにワイシャツ腕まくり、ネクタイ、エプロン。最高の組み合わせだわね」
俺がそれを着て更衣室から出てくると、満足げに観月さんが頷いた。なんだか着せ替え人形に服を着せているときの少女みたいに楽しげだ。俺が「はあ、どうも」と言うと彼女は「低体温系男子なのね、君は」と笑った。
なんだ、低体温系男子って。
聞いたことのないワードに首をひねりながらカウンターに立つと、観月さんは言った。
「16時くらいになるといつもおんなじ子が来るんだけどね、その子いつも同じ席に座るの。だから、それくらいの時間になったらそこなるべく避けてお客さんご案内してね」
そして観月さんの言う通り16時ごろ来た少女が、例のあのホットココアさんだったのだ。
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