ホットココアさんとホトトギス

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 彼女は本当にいつも同じ席に座る。店の一番奥の窓際の席。観月さんに促されていつもと同じ席に着いた彼女は、ぺこりと礼儀正しく頭を下げて飴色のソファーに座る。  そして俺を見上げて言ったのだ。 「ホットココア、お願いします」と。  カフェ・メープルのココアには、マスターである観月さん買い付けのミルクと砂糖、ココアを使う。ミルクはエスプレッソマシーンを使ってスチーム。蒸気を使って温めると、ミルクの中に空気が含まれ、ミルクの甘さととろりとした食感がプラスされるのだ。その生クリームのようになったスチームミルクを使い、甘さのしっかりとしたホットココアを作る。ココアと砂糖、スチームしたミルクを調合しながらホットココアを完成させる。ふわりと甘い匂いが漂うと、今日も一仕事を終えた、そんな気分になるのだ。まだ俺はほんの学生だけど。  ホットココアさんの動きは、いつも規則正しい。入ってきて同じ席に座り、ホットココアがくるとすっと手をあわせて「いただきます」と言い、ぼうっと教科書を見たり時折ココアを口に運んだりしてゆったりと過ごす。そして何をするわけでもなく、飲み終わると席を立ち、会計で「ごちそうさまでした」と頭をぺこりと下げて出ていく。大体それはいつも18時半ごろ。その動作はいつもスムーズで、綺麗だ。
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