ホットココアさんとホトトギス

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 ホットココアさんがぴょこんと突然、立ち上がったのだ。まだマシュマロを入れてあんなに美味しそうに飲んでいたココアは飲み切っていないのに。  そっと眺めていると、彼女は周りをきょろきょろと見回した。店の扉、レジ、トイレの扉、そして最後に俺たち。俺の目をみると彼女は困ったように目線をまた一から順に繰り返しはじめた。 「どうしたの」  そんな彼女の様子に気づいたらしい、祐介が優しく声を彼女にかけた。相手が警戒していることを的確に読み取ったトーンで、安心させるように一言、問いかける。こういうところ、こいつは本当に上手い。  その助け船にほっとしたのか、彼女は口を開いた。 「あ、あの」  喫茶店員と客とのやり取り以外で彼女の紡ぐ言葉を、初めて聞いたのだとその時気付く。なんだか不思議な感じだった。 「隠してくれませんか」  彼女がぱっとカウンターで立っている俺の前まで移動し、俺の隣の空間を遠慮がちに指さす。その綺麗な目が頼りなげにゆらゆらと揺れながらも、まっすぐに俺の隣を指さしている。どうやらカウンターの裏に入りたいらしい。
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