ホットココアさんとホトトギス

25/45

557人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
「少しだけでいいので、お願いします」  唐突な申し出に固まりながらも彼女の方をよく見ると、ホットココアさんの肩は小さく震えていた。どう見ても店の内側までずかずか入ってきて悪戯をするような様子ではないし、その切羽詰まった声の響きに緊急性を感じ取って俺は考える間もなく無意識に頷く。 「いいですよ、どうぞこっちへ」  彼女を手招きすると、ぺこりと頭を下げながらホットココアさんが俺の隣を潜り抜ける。そして彼女はカウンターの影にしゃがみ込んだ。  一体どうしたのだろう、そう思いながら彼女を見ていて、俺は先ほど感じていた違和感のもとにやっと気づいた。  いつもこげ茶のローファーを履いている彼女の靴が、今日は白いスニーカーのような紐靴になっている。かかとの部分には黒い文字のようなシミがついているから、だいぶ使い込まれている。全体的に落ち着いた秋色のトーンで統一された制服に映えるようなその白さが、今カウンターの陰にうずくまっている彼女が身に着けているパーツの中でもひと際目立った。  どこか体調でも悪いのかと聞こうとしたとき、喫茶店のドアベルが鳴った。どやどやと店内に入ってくる三人の女子高生の制服には見覚えがある。俺の横でカウンターに隠れるようにかがんでいる彼女と同じ制服だ。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加