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完全に丸投げ。俺は観念して、ミルから挽いて粉末になったコーヒー豆を取り出し、サイフォンのロートの中にザッと投入した。
「ホトトギスって、知ってます?」
「えーと、あの織田信長が言ってるホトトギスですか?」
黒髪ロングの樹里さんが答える。
「鳴かぬならってやつですね、それは鳥の方。俺が言ってるのは花の方です」
「ホトトギスって花、あるんですか」
彼女たちが目を丸くする。その横で祐介がスマホを取り出し、指を高速でスクロールさせた。そして「あー、なるほど」と言いながら苦笑し、その画面を彼女たちに見せる。
「こんな感じの花」
途端に彼女たちが怪訝な顔をした。そこには細い茎をすっと伸ばした先に、濃い紫色の斑点がはいった小さな白い花を上向きに咲かせる植物の画像があった。
「えーーと……なんていうかあの、食虫花みたいですね……?」
「ちょっと苦手かも……」
「そうですか、残念です。俺は好きなんですが」
顔をしかめて見せる彼女たちの前で、俺は淡々とサイフォンの濾過機の先から垂れているボールチェーンをゆっくり湯の中に沈めた。泡が次々にチェーンを伝って上ってくるのは、完全に沸騰した合図だ。
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