ホットココアさんとホトトギス

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 俺はロートをしっかりとサイフォンのフラスコの中に差し込んだ。 「その模様が、鳥のホトトギスの胸の模様と似てるからそう呼ばれているんです。鳥と全く同じ名前がついている花はこれだけしかありません」 「へ、へえ……」  若干引き気味の女子高生三人を前に、サイフォンの湯がロートの方に上昇してくる。さっと竹べらを取り出し、コーヒー粉と湯をなじませるよう、円を書くように混ぜていく。 「で、なぜその鳥の模様が花の名前になったのか、東北地方に伝わる面白いお話があるんです」  俺は滅多に意識しない顔面の筋肉を意識してゆっくりと微笑んで見せた。彼女たちが戸惑いながら、つられたようにゆっくり頷く。  祐介のにやにや笑いが視界の隅に入るのが腹立たしい。後で覚えていろ、と思いながら俺は話を続けた。 「昔、疑り深い兄と心の優しい弟が山の中に暮らしていて。弟は山芋を掘って来ると兄に美味しいところを渡し、残った部分の固くてまずい根の部分を自分が食べていたんです。このことを兄が知ったら心配すると思って、隠れてこっそりと」  サイフォンにかかる火力を弱火にして、コーヒーを抽出する。上から泡、コーヒーの粉、液体の三層になっているから、きっとこれで成功だと俺は心の中でほっと胸をなでおろす。そして話を続けた。
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