ホットココアさんとホトトギス

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「でもそれを知った兄は、こそこそ隠れて食べているのはきっとおいしい所を黙って独り占めしているに違いないと疑ってかかり、弟を責めて殺してしまったんです」  女子高生たちがひっと声を上げた。俺は淡々と火を消し、もう一度ロートの中を軽くかき混ぜ、二回目の攪拌をする。 「そしてその腹を引き裂いてみると、胃の中から固い筋や皮ばかりが出てきた。それを見た兄は悔やみ、嘆き悲しみました。そして鳥のホトトギスになって『おとうと恋し』と叫び、のどから血を吐いて胸をかきむしった。そのたびに血に染まった羽が散って、ホトトギスの花になった。そういう民話があります。  ホトトギスの花の斑模様は、兄の贖罪のしるしと言われているんです」  竹べらでロートの中をかき混ぜ、コーヒー液がフラスコの中へ落下するのを待つ。 「……あなたたちも、贖罪する羽目にならないといいですね? この話の兄のように、やってしまったことを後から後悔しても、もう遅いなんてことは度々ありますから」  コーヒー液が完全に落ちきった。 「……なんですか、それ」  樹里さんとやらがつぐんでいた口を開く。
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