ホットココアさんとホトトギス

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「その袋の中のローファー、あなたたちのじゃありませんね?」  俺の言った言葉に反応して、隣にうずくまるホットココアさんがびくりと体を震わせた。 「……友達が、靴忘れて帰ったんです上履きのまま。だから届けようと思って」 「まず靴忘れるってどんな状況なんですか。それに」  出来上がったコーヒーを、細口のドリップポットの中に注ぎ込みながら俺は言葉を続けた。ふわりと香ばしい淹れたてコーヒーのアロマが喫茶店の中に漂う。  そして俺は次に、ココアを淹れる準備に取り掛かった。ミルクをスチームさせ、ココアと砂糖を用意する。 「本当に渡す気があったら、電話なりメールなりしませんか? ひたすら相手を探すなんて非効率なことはしないはずですよね。でもあなたたちは連絡を確認するようなそぶりもない」 「うちの高校、スマホ使えないので」  憮然とした声で答える3人に、横から声が割って入った。 「その制服、清和高校のだよね。あそこは校則も緩いからスマホ使えるはずだよ」  俺も観月さんも、女子高生3人も、ホットココアさんも、ぎょっとしたようにみんな祐介の方を向いた。女子高生3人に至っては、不審者を見るような目つきになっている。 「なにここ、気味悪い」  行こ、と言って樹里さんが席を立ち、後の二人も一目散に出て行く。カランコロン、といつもより激しめの音を立て、ドアベルが3人を見送った。
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