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ほおお、と頷いてから観月さんもコーヒーを啜る。俺がドキドキしながら見ていると彼女は「うん、よくできてる美味しい。合格」と親指を立ててみせた。
実は一人だけでコーヒーを淹れるのはこれが初めてだったのだ。サイフォンでの淹れ方に慣れず、ダメ出しを受けてこれまで何回リテイクを重ねてきたことか。どうやらやっと合格だ、と俺はほっと胸をなでおろす。
「……昔の人は、花を見た目だけで判断するんじゃなくて、いろんな角度からその花に逸話や花言葉を見出しました。見た目が毒々しくてもこうして綺麗な花言葉がついたりもするし、逆に言えば誰もが知る綺麗な花に怖い花言葉がついていることだってある。それを一つ一つなぞっていって、意味をたどったりするのが実は俺、好きなんです」
俺は言葉を切って、祐介をぎろりと横目で見た。
「……ってことを話すつもりだったんだけど、これで満足か?」
「オッケーオッケー上等」
「何が上等だよ、完全に楽しんでただけだろお前。もうあんまり言いたくなかったのに」
満足げに頷く祐介に俺は大きなため息をついてみせた。
「いやこういうときに話のレパートリー豊富なの、実は馨なんだって。だから何とかしてくれるかなと」
「俺が話できるのはこのジャンルだけって知ってて言ってんのか、それ」
鋭く指摘すると、奴はへらへらと笑ってそれを交わす。「まあ結果オーライ、なんとかなったしカミングアウトも済んだってことで」なんて言いながら涼しい顔でコーヒーを啜っている。
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