ホットココアさんとホトトギス

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 本当にありがとうございましたとホットココアさんは頭を下げる。時計を見ると、もう18時半だった。彼女がいつも帰る時間だ。 「あの、皆さんの名前、教えていただけませんか」  できればこれにふりがなも一緒に書いてください、お世話になったししっかり覚えたいので――。彼女はそう言いながらB5サイズのノートを取り出し、白紙のページを開く。どうやら日付順にページをつけているらしく、その左上には今日の日付がかかれていた。  差し出された鉛筆を使って、俺たちは名前を書く。  店長は、『山根観月(やまねみづき)』。祐介は、『内藤祐介(ないとうゆうすけ)』。俺は『石蕗馨(つわぶきけい)』。  彼女はそれを見て満足げにノートをカバンに丁寧にしまった。それを眺めながら俺は彼女に声をかける。 「えーっと……」  そういえば名前を知らなかった。まさかホットココアさんと勝手に呼んでいただなんて言えない。詰まる俺に、彼女は教えてくれた。 「私、『ここね』っていいます」
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