パンとクローバー

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「小麦には『財産』って意味があるんです、無駄になることなんてないですよ」  焼きたての焦がしてしまったパンのスライス。普段ならば捨ててしまうところだが。 「野菜スープのストック、お借りします」  急なオーダーに備えて、店には前の晩から仕込んでおいたスープのベースストックがある。玉ねぎ、パセリ、セロリ、人参、キャベツをニンニクと塩で味付けし、ゆっくりと一晩かけて煮たてた野菜スープはシンプルながら味わい深い。俺はそれを手早く熱し、熱々のスープを焦げてしまったパンの上にざっと注いだ。  パンがジュジュっと激しい音を立て、身をあちらこちらによじりながらスープを吸い込んでいく。軽やかな音を立てたパンがぶわっと膨らみ、同時によく焼けたパンの香ばしい香りがバターの香りも一緒に連れて立ち上ってきた。 「え、すっごくいい匂い……」 「俺の今日のまかない、これってことで。いただきます」  旨味とお焦げの香ばしい風味が滲み出たスープ。立ちながら食べていると、観月さんが恐る恐る味見を申し出た。俺は彼女の分も別の皿に分け、自分の分を手早く食べる。  時間は15時半過ぎ。そろそろホットココアさん改めココネさんが来る頃だ。
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