ホットココアさんとホトトギス

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その『どのくらいの速度で進めば、相手に追いつかずやり過ごせるか』問題を頭の中でなんとなく感覚で測る。算数とか数学なんてそんなに特に好きでもないから、実際に秒数の計算なんてものはしないけど。 そんなことをひたすら考えていた俺は、背後から駆け上がってくる足音に気づかなかった。 「どうした(けい)」  声と共に背中を意外と強い力でどつかれ、俺は不覚にも前のめりに体勢を崩す。人間、急な衝撃には弱いものだ。顔をしかめながら振り返ってみせると、当の本人は整った顔に満面の笑みを浮かべながら「よっ」と片手を上げた。 「祐介(ゆうすけ)、朝から元気だなお前」 「馨は朝から後ろ姿黄昏てんな、どした」  そう言った祐介は目の前の二人組を見て状況を一瞬で察したらしい。彼はぽんと俺の肩を叩いて静かに首を振った。その仕草がわざとらしくてなんだかちょっと腹が立つ。 「ああ、聡美(さとみ)か」  お前なあ、そんなん気にしないで早く行こうぜ、講義始まるぞと祐介が俺の腕を引っ張る。 「いや、面倒なんだって。いいんだよこれで」 「あと10分ちょいしかないのに」
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