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「どういったご用件でしょうか?」
俺が側に立つと、お爺さんはまあかけなさいと言わんばかりに俺に身振りで座るよう促した。観月さんをちらりと見ると、彼女はサイフォンのコーヒー液をゆっくりとかき混ぜながら大きく頷く。
どうやら腰を落ち着けて会話をしないといけないらしい。口下手な俺に話がつとまるかどうか不安しかないうろついた気分のまま、俺はお爺さんの前のソファに座った。
「お兄さん、花に詳しいのかい?」
お爺さん口調は疑問形で、顔は完全に疑ってかかっている色が見て取れる。人間、疑われているときは声音や顔色で分かってしまうものだなと俺は他人事のように思った。
「詳しいか詳しくないかの二択で答えるとしたら、詳しい方かとは思います」
「なら、教えてほしい。この本の題名の花は、どんな花なのか」
お爺さんは本の表紙を表にして、タイトルを示す。
『虞美人草』。さっきココネさんがノートに書いたとおりだった。
「ひなげしのことですね。ポピー、コクリコとも呼ばれていて、赤・白・ピンクなどの4弁花を開きます。薄い和紙で作ったようなしわのある花弁が風に揺られる姿に風情がある、とよく言われていますね」
そう言いながら俺はスマホの写真フォルダから画像を探し、お爺さんにひなげしの写真を見せた。
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