ホットココアさんとホトトギス

6/45

557人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
 急かす祐介と逆らう俺のやりとりが聞こえてしまったのか、突然前を歩いていたカップルの女の方が振り向いた。さらさらとしたショートカットの黒髪が、小柄な顔を縁取って揺らぐ。 「あれ、『知ってる』コンビじゃん」  そう言いながら聡美が手を振ってくる。眩しいくらいの満面の笑みで。  ――計算失敗だ。 ありったけの目力を込めて、俺は祐介を横目ですっと見る。おおこわ、と彼は軽く肩をすくめた。算数の問題にだって一度も、追いかけるべき対象がこちらに走り寄ってきました、なんて展開はなかった。でも現実はそうもいかないらしい。 「なんだそれ」  聡美と歩いていた男が軽く口角を上げて微笑する。お前また謎のネーミングセンス発動したの? そう聡美に聞く彼の口調は優しいし、彼女の方も「や、違うし今回のは私がつけたんじゃないしネーミングセンス謎ってどういうことよ」とわざと膨れてみせている。どうやら仲は順調らしい。  少しだけ、まだ胸の奥がひりっとざわついた。 「この二人と高校同じだったんだけど、このコンビ女子たちからイケメンコンビって騒がれててさ。で、イケメンって言われるたんびに、そん時の返しがいつも同じなの」 「『知ってる』」  ニヤリと笑いながら祐介が当時の返しを再現してみせる。俺は呆れた表情でそのやりとりを眺めていた。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加