パンとクローバー

20/52

557人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
「お前いなきゃ探せないだろ、行ってこいよ。なんなら俺が臨時でバイト入るから」  俺前のバイトでカフェの店員やってたことあるからさ。そう付け足して、祐介がためらう俺の背中をぐいぐい押した。 「お前な」 「あの人のこと心配だから迷ってんだろ? 大丈夫、俺負け戦はしない主義だし問題なし」  なんかお前、勘違いしてないか。そう言う前に有無を言わさず、祐介が俺をカフェの外へ押し出す。後ろでカランコロンと激しい音を立ててドアが閉まった。 「……ったく、強引なんだから」  カフェ店員の格好のまま外に出された俺は、誰かにじろじろ見られる前にエプロンを外す。エプロンを外せば灰色のワイシャツに黒いズボン、まあ外に出ても違和感のない格好だ。むしろ河原に行くのだから、汚れにくい色で助かった。 「じゃあ、行きましょうか」  俺が肩越しに振り返って二人に言うと、二人は遠慮がちに頷いた。 「気にしなくて大丈夫ですよ。あいつは信頼できる。それに」 あいつが大丈夫というなら、不本意ながら大丈夫だと断言できる。だからカフェと観月さんは奴に任せるとして。俺が今やるべきことは、この二人の探し物を手伝うことだ。  そして、俺は心から素敵だと思った。自分の大事な人のために、意味を探して奔走する姿が。 「俺にも手伝わせてください、贈り物探し」
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加