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「石蕗さん、エプロンカバンに入れときましょうか?」
ココネさんがペンを置きながら、俺のカフェエプロンを指差す。先ほどまでの豆知識をまたメモに取っていたのだろうか、なんだか気恥ずかしい。
「え、ありがとうございます。……すみませんがお願いしてもいいですか?」
カフェ店員の格好のまま追い出されてきたから、何も持ち物がなく手ぶらの俺はエプロンを持ったまま歩いていた。
「敬語じゃなくて、タメで話してくれませんか?」
「え?」
「もう喫茶店の外ですから。敬語なしで喋ってほしいです」
ね?と首を傾げられて、俺はたじろいだ。彼女はじっとその水晶玉のような目で俺を見ている。
「分かった。エプロン、お願い」
「はーい」
気恥ずかしさからの抵抗感があるものの、彼女の視線に負けて俺は折れる。ココネさんが笑って黒エプロンをスクールバッグの中に畳んでしまい込んだ。
「あと、私も」
「ん?」
「馨さん、って呼んでもいいですか。皆さんがそう呼んでるの聞いて、いいなって」
「……どうぞ?」
そう言われて気恥ずかしいものの、悪い気はしない。俺も心の中ではホットココアさんだとか勝手に呼んでいたわけだし。俺の答えに、心音さんは目じりを緩めてふわっと笑った。
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