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「そう、それそれ。なんだかネタみたいになっててさ。ついたコンビ名が『知ってるコンビ』」
「ネタみたい、じゃなくて実際ネタだから。そんなん真面目に言う奴、俺だったら引くね。しかもそれいっつも言ってたの祐介だけだし」
ため息交じりに言った俺の言葉に反応して、「えっ?」と言いながら祐介がきょとんとすっとぼける。
「俺ガチだったんだけど」
「まじかよ」
だめだこいつ救いようのないバカだと嘆いてみせると、聡美の彼氏がくすくすと笑った。
「それにしても本当に二人ともイケメンだなあ。モテそう」
そう言った聡美の彼氏の口調は呆れ半分、適当な言葉半分といった感じで、早く会話を切り上げたそうな空気感がありありと出ている、気がする。そりゃそうだと内心俺は少しだけ彼に同情した。せっかく彼女と歩いてたのに男二人が加わって自分の知らない思い出話を始められるなんて、面白くもなんともないだろう。
でもな、と俺は心の中でふてくされた。
簡単に人にモテたら苦労しねえっての。
「全くモテないです。てか、好きな奴に好かれなかったら例えどんなに顔良くったって意味ないんで。彼女いるの、めちゃくちゃ羨ましいです」
じゃ、俺授業もう始まるからと顔面の表情をあまり変えないように意識しながら俺はさっきまでののろのろとした歩みを取り戻す勢いで坂道を歩く。
聡美の傍を通るとき、植え込みのキンモクセイの香りがふわりと存在感を増して、漂った気がした。
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