パンとクローバー

26/52

557人が本棚に入れています
本棚に追加
/270ページ
「私の目、色変なんです。光の加減で緑色に見える時があるみたいで」 「変じゃないだろ」  咄嗟に出た言葉に、ココネさんがぱっと顔を上げた。  言ってしまってから次の言葉に俺は詰まった。こういう時、祐介ならさらっと女の子が喜べる言葉が言えるんだろう。たまにこういう時、本当にごくたまにだけれど、あいつの思考回路を自分の頭に召喚したくなる。 「綺麗だと思うよ、クローバーの色だ」  だめだ、スベった。  何か言わなければと咄嗟に出てきたのが手元にあるクローバーなんて。もっといい例えがあるだろ俺ぇ!と心の中で自分を罵る。  何も言わなかった体にしようとクローバー探しを再開した俺の横で、ココネさんが吹き出した。 「完全に今、思いつきで言いましたよね」 「………」  黙り込んでいると、ココネさんはくすくすと笑いながら同じようにクローバー探しを再開した。 「でもそっかぁ、クローバーの色。ふふ」 「恥ずかしいからもうやめろ、それ」  そこまでノートに書かなくていいからなと釘を刺すと、彼女は笑いながら「はいはい」と言った。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加