パンとクローバー

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「お、帰ってきた帰ってきた」  カランコロンと音を立てながらカフェ・メープルのドアを開けると、祐介がカウンターから手を振ってきた。この店の灰色のワイシャツと黒ネクタイが嫌味なほどよく似合っている。 「ただいま……ってえ、どうしたこれ」  お爺さんとココネさんが座っていた席に向かいながら、俺は店を見回す。いつもより若い女性客が断然多い。店の席の間をすり抜けていく間中ずっと女性客の視線が突き刺さっていて、俺は居心地の悪さを感じながらお爺さんとココネさんを席に案内した。 「このお店、もう一人男の店員さんいたのね」 「やだ、この人もすっごいイケメン」  なんなんだこの状況は。誰かこの状況を説明してくれと願っていると、観月さんがこそりと俺に教えてくれた。 「祐介くんが外で窓ふきの掃除してくれてたんだけど、それ見た女性の通行人が『やだこの人イケメン!』ってなったらしくてね。いつのまにかお客さんに」  とてつもない特技持ってるのね君の友達、と言われて俺はカウンターの中でニコニコしながら機材の調整をしている祐介を横目で見る。 「助かるわあ、これから馨くんにもそうしてもらおうかなー、君もできると思うのよね客寄せ」 「ぜったいやりませんから」
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