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有無を言わさない笑顔の観月さんの迫力に押されて、素直に席に着く。
「夕方の寒い中川土手にいたんだから、体あっためないと」
そう言いながら、観月さんがクロックムッシュを置く。とろりとしたチーズが覆うパンからは、ほのかに香ばしい匂いと湯気が立ち上る。
「今日もココアよね?」
コーヒーを2つ置いたところで、彼女はココネさんにそっと聞いた。
「いえ、皆さんと同じコーヒーで」
「了解しました。無理しちゃダメよ」
「大丈夫です」
何が無理なんだ、というように不思議そうに首を傾げて彼女が答える。俺は意外に思った。
コーヒー飲めるんだ。いつも甘いココアを飲んでいるし、てっきり飲めないものだと勝手に思っていた。
「今日はいつもと違うんだね」
「もう今日は自由でいいかなって。皆さんと同じ味が食べたいです」
今日は。その言葉に引っかかったとき、ココネさんが笑顔で言った。
「敬語やめてくれたんですね」
嬉しいです、と言いながら彼女は上機嫌でコーヒーを口に運ぶ。コーヒーの苦味に顔を歪めるかと思いきや、彼女は涼しい顔でブラックコーヒーをこくりと飲み込み「美味しい」と顔をさらに綻ばせた。
「……よかった、飲んで」
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