パンとクローバー

35/52
前へ
/270ページ
次へ
「……あいつにも食べさせてやりたいな」  お爺さんがクロックムッシュを平らげながら呟いた。 「奥さんですか?」 「ああ。……妻はパンが好きでね。私は米派なんだが」  どうやら米派にも響く味のクロックムッシュだったらしい。そしてこのお爺さんはこうふとした時に思い出すほど。 「奥さんのこと、本当に大事になさってるんですね」  偶然だけれど、きっとこれは大事なこと。知ってほしいと思った。 「知ってますか、今日見つけた四つ葉のクローバーの花言葉は『幸運』だけじゃないんです」 四つ葉のクローバーの葉には、それぞれ一枚一枚に意味が込められている。 「四つ葉のうち一枚が、よく世間に知られているように『幸運』。それ以外の葉はそれぞれ『希望』『誠実』『愛情』のシンボルを意味します。ただ、国によって少し違いがあって」 コーヒーを啜って、俺は言葉を続けた。 何だか気恥ずかしいことを言おうとしてるから、喉がかわく。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

557人が本棚に入れています
本棚に追加