パンとクローバー

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「日本とアメリカでは少し意味が違っていて、アメリカでは『名声』、『富』、『満ち足りた愛』、そして『素晴らしい健康』と、それぞれの葉に願いがかけられてるんです」 「素晴らしい健康、か」  なるほど、とお爺さんが呟いた。  つまり、日本語では幸運を代表として意味するクローバーは、アメリカの花言葉で言えばお見舞いの意味でもしっくりくることになる。  そしてさらに、もう一つ伝えたいことがあった。 「それで、アメリカではもう一つ意味があって。4枚そろって真実の愛――『True Love』を意味するんです」  言い終わった瞬間、コーヒーを勢いよく飲み干す。マイルドな苦味が口の中を直撃してきて、俺は二重の意味で顔をしかめた。 「うちのコーヒーは一気飲みには向いてませんよ、お客様」 「祐介うるさい、ほっといてくんない?」 「すんませんほんとこいつ、くそ真面目なもんで自分で言った言葉に自分で照れてるんです」  いつからいたのか、祐介がにやにやと俺を見下ろして立っている。手には銀色細口のドリップポット。奴は頼んでもいないのに、俺のコーヒーカップになみなみとコーヒーを淹れなおした。
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